「しくみをみよう」構造目線

絵空ごと , 創作物語

完璧なシェルター(超短編)

これから先、数百年間は、外の環境下に身を置くことはできない状況になってしまっている。
放射性物質の影響が小さくなっていく半減期の長さは、人の寿命を超えている。
その長い間、人が生き続ける環境を確保することをを考えなければならなかった。
こうなることは数十年前から分かっていた。
残念ながら、この環境に対応できる防護服のようなものを生み出すことは到底できなかった。
数百年間、外の環境と隔絶したまま、その内部で人が生き続けることができるようなシェルターを開発するしかなかった。
そして、私は、この完璧なシェルターを完成させた。

誰しもがシェルターの開発に取り組んだ。
こうなる前に、何としてでも準備しなければならない。
それぞれのシェルターの開発が、慌ただしく進められてきた。
このシェルターの小さな窓、それを窓と呼べるかどうかは分からないが、外を映し出すモニタの映像にも、いくつかのシェルターが点在していることが確認できる。
この外的な環境下では、それぞれのシェルターの壁が浸食されていく。
壁の厚さを増しておくことが重要ではあるが、数百年間持たせるためには、単に厚ければ良いというものではない。
浸食が進んできたときに、その浸食を途中で止める工夫が必要になる。
浸食部分が変成することにより、それ以上の浸食を止める、百年単位のシミュレーションを行って、それが可能となる技術を開発した。
そうしてできあがったのが、このシェルターだ。
他のシェルターでは、私が開発したこの仕組みを利用していないため、当面の百年ぐらいは大丈夫であったとしても、その先の保証はない。おそらく内部にまで浸食が進むであろう。

外部から守られたシェルター内で、人は生き続けなければならない。
そのための内部環境の整備、食料や水を生み出す仕組みが必要である。
そのシステムについても完璧なものを開発できた。
放射能にさらされた外部環境下で、エネルギーを確保し続ける方法も開発できた。
他のシェルターでは、この仕組みを採用していないため、数百年単位での、シェルター内部の恒常性を保つ保証は、おそらくはない。

また数世代にわたって遺伝子を継承していくために、シェルター内でDNAを保存する技術、生体形成する技術も必要であった。
このシェルターを数多く作ることができれば良かったが、制作に時間を要したこともあり、この一つしか完成させることができなかった。
おそらく、他のシェルターでは、人は救えない。
数百年後には、このシェルターのみが存在していることになるであろう。

しかしながら、である。
複数の協力者を得て、このシェルターの完成にこぎ着けたが、そのメンバー全員がなぜ、別のシェルターに入ってしまったのか、その理由が私には分からない。
そして、今、このシェルター内にいる人は、私一人だけである。

この完璧なシェルター内で、遺伝子を継承していくための初期条件として、非常に重要なことが一つある。
それは男女ひと組でスタートしなければならないという点である。
そして、今、私のパートナーは居ない。
この完璧なシェルターの中で、人は、私の寿命と共に消え去る運命にある。

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