「かなり昔に、『三匹のこぶた』っていう話が語り継がれていたらしいこと知ってる?」
「三兄弟がそれぞれ家を建てるっていう話だよね。」
「わらと木とれんがの家を兄弟が別々に建てて、一番下の弟が建てたレンガの家が丈夫でオオカミに打ち勝つことができるって言う話だよ。こつこつ努力を積み重ねていくことの重要性を伝えたかった話なのかもしれない。」
「で、これから見に行く家と関係があるのかい?」
「二人の兄弟が、それぞれ別々に建てた家なんだよ。」
「わらとレンガの家が建ってたりするってこと?」
「材料に大きな違いはないんだけど、二人の性格がまったく違うらしい。兄の方は、計算が得意で、コンピュータの構造計算ソフトを駆使して、細かい部分までシミュレーションをして、どういう力が加われば、どうなるかということを徹底的に解析するタイプなんだ。それに比べて、弟の方は、とにかく安全になることを目指して材料と手間をかけることを惜しまず、とにかく、こつこつ、しっかり作っていこうとするタイプなんだ。」
「弟の方が、『三匹のこぶた』のれんがの家を建てた三男坊みたいだね。」
「そうかもしれない。一方で、兄の方は、徹底的に解析をしていく中で、建物に加わる力、それを荷重と呼ぶそうなんだけど、完璧には予測しきれないので、ある程度の想定のもと、精密な計算をして、それに基づいて建てたそうなんだ。」
「どんな力が加わるかまでは、完璧には予測できないのかあ。」
「そのために、計算した結果に安全率という数字をかけて、その数字で安全性をチェックして最終的な形を決めるそうなんだ。具体的な数値は忘れたけど、あれもこれもと不安要素を盛り込んでいって、最終的には、かなり大きな安全率をかけ算してチェックをしたらしいよ。」
「いずれにしろ、まったく異なるアプローチで2つの家は建てられたってことだね。それぞれ別々に住んでいるの?」
「道の両側にそれぞれの家が建っているらしい。この先のカーブを曲がった先にあるはずだよ。」
「あっ、見えてきた。見えてきた。」
カーブの先に、道をはさんで建つ、2軒の家に近づいてきた。
「おそらく、あの2軒だよ。」
徐々に近づき、家の姿がはっきりと分かるところまで来た。
「で、どっちが、どっちの家なの?」
その場所には、道をはさんで、鏡で写したかのようなそっくりの形をした2軒の家があった。
「どちらも丈夫そうだね。」
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