「しくみをみよう」構造目線

絵空ごと , 創作物語

モニュメント(超短編)

天体博物館ツアーの行程の一つである、およそ1万年前に建てられた構造物のある天体の上空を周遊していた。
今回のツアーのメインとなる見学地点である。
ツアーガイドが、歴史記録のデータベースから得た設計者の経歴や業績を一通り話した後、この構造物についての解説をしていた。
上空から観ているだけではあるが、この構造物の巨大なこと、複雑な形状をしていること、にも関わらず、材料の細い部分は、なぜその細さで形を保っているのか、その理屈が想像できないほどに細い素材でつながれている不思議な形をしていることが一目で分かった。
また、時折、各部分が微妙に形を変えて動いていて、少し角度が変化しただけにも関わらず、劇的にその印象が変わる様子が確認できた。
さまざまな部分が変化するので、ツアー参加者は、それぞれ近い窓から眺めつつ、見える部分での劇的な変化に感動していた。
そのため、船内でも、時間をずらして、あちらこちらで歓声が上がり続けていた。
なるほど、人気のツアーになるはずであるなと誰しもが納得できた。

この構造物の価値は、この形の面白さにあることは当然のことながら、1万年もの間、建ち続けているということにあった。
この天体では、地球上で起こる地震のような現象は、ほぼ起こらないらしい。
しかし、大気は存在するため、風やその他の気象変動はあり、この構造物はその影響を受ける。
重力加速度も地球の2分の1程度であるものの存在するため、自重を支え続ける必要がある。
素材には劣化しにくい鉱物が用いられているとはいえ、1万年ものあいだ存在し続けるこの構造物を、当時の設計者が、どういうシミュレーションをして設計したのか想像の域を超える。

「これだけの構造物を作り上げるためには、数多くの計算のシミュレーションや実験などが行われたんでしょうね。」

ツアーガイドに小声で尋ねてみた。
ツアーガイドは、そんなに感心することでもないんですよと言いたげな表情をしていた。

「この天体は、この設計者の構造物でかつては埋め尽くされていたらしいですよ。今となっては、それらすべてが倒壊、消滅して、結局残ったのが、これ1つだけなんですよ。」
「1万年かけた壮大な実験。その結果を観ている訳か。」
「そうなんです。だから、この先、いつまでこの構造物が残っているのかは、誰も予想できないらしいですよ。」

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