「しくみをみよう」構造目線

絵空ごと , 創作物語

先祖が残してくれたもの(超短編)

「あの星は何?どうしてあんな形をしていのだろうか?」
宇宙船の小さな窓から肉眼で確認しつつ、データベースにアクセスする。
「確かに妙な形をしているね。」
「あの球体に巨大な立方体がぶつかっているのか、くっついているのか、こんな星はみたことないね。」
球体に灰色の巨大な立方体が合体している。立方体の一辺の長さは球体の直径の8分の1ぐらいで、明らかに星のシルエットが単純な球ではなくなっている。
「あの立方体は何なのかなあ。建築物なのか?自然現象でできたものなのか?」
データベースからの応答があった。
「あの星の名前は、地球と呼ばれている星らしいよ。」
「接近して、あの立方体の成分を調べてみよう。」
ある光を立方体に照射して成分を分析する。
「アルカリ性のようだね。水、石灰の成分が多く含まれている。さまざまな鉱物も混じっているみたいだ。」
「あっ、何か小さな銀色の円盤状の物体が立方体の表面をなでるかのように動いているね。結構たくさんあるよ。」
「それに比べるとかなり大きいけど、長方形の黒い物体もちらほらあるね。ほら、あそこにも、そこにも。ゆっくり上下に動いているようだ。」
「生命反応もあるので、何らかの生物も生息していそうだね。ただ、あまり反応は強くないので、そう多くの生命体があるわけでもなさそうだよ。」
「川や湖、水は結構ありそうだ。」
「未来の人類のための仕事、単純な作業で大きなやりがいのある仕事。そうには違いないけど、延々と続く作業には、いいかげん飽きてきたよ。」
「これをやり続けるしか、我々が生き延びていく方法はないのだから、仕方ないよ。」
「大量の放射線物質を1カ所に集める。それをコンクリートの塊で閉じ込める。新たに出てくる物質もその塊に埋め込んでいく。この作業から逃れる道はないよ。」
コンクリートは、石灰の成分でできているセメント、それに砂、砂利、水を混ぜて水和反応を起こさせた結果、固まったものである。
分厚くすれば、放射能の漏れを防ぐことができる。
新たに生み出される放射線物質も閉じ込めていかなければならない。
黒い長方形はコンクリート打設を行うロボットで、このロボットがコンクリートの厚さを増していく作業を行っている。
そしてその作業が繰り返されているうちに、この大きさの立方体になってしまった。
コンクリートは、未来永劫変化しないものとは言えない。
コンクリートの質そのものが劣化したり、細かいひび割れが発生したりする。
表面から放射線物質まで微細なひび割れがつながると、放射能漏れが起こることになる。
そのため、休むことなく、数多くのひび割れ修復ロボットがコンクリートの表面をなでるように行き来している。
「ロボットも自動運転だから、我々の作業はバッテリーの管理とコンクリートの成分チェックモニターの確認のみ。これには飽きてしまうよなあ。」
「まったく、我々の先祖もやっかいな物質を残してくれたもんだ。」
記憶も遠いはるかかなたの時代に放射能汚染が広がり、人類はほぼ壊滅状態になった。
残された数少ない人類で、コンクリートの塊で放射性物質閉じ込め作業を開始して、今に至っている。
この作業を続けていくためには、セメントが確保され続けないといけない。
セメントは石灰石から採取できる。
「ま、でも石灰の成分がまだまだあることが救いだね。」
「そうだよ。あれだけの数の人類の骨が埋まっているからね。当面、大丈夫だよ。」
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