なぜ社会は専門家の声を聞かないのか、専門家は社会の声を聞かないのか
─人為的要因による災害の防止に向けた技術・社会のあり方
2021日本建築学会大会 1日目の午後です。
大会のプログラムは日本建築学会のWEBサイトで確認できます。
また資料のpdfはオンラインで購入することができます。
途中から聴講しました。
災害の防止のために、住民自らが関わることが語られていました。
住民が理解するための手作りワークショップの事例が紹介されていました。
救わなければならない弱者をどう動かすか、最後は時間との勝負であるという話も説得力のあるものでした。
丘陵地や大規模盛土造成地の被害についての解説もありました。
造成地マップや旧地図も参照すべきであるとのことでしたが、
大規模盛土は全国5万箇所もあり、チェックされているのはその内の数%だそうです。
1961年の災害対策基本法では、
国が国民の生命、身体及び財産を災害から守る公助によるものだそうですが、
地域防災計画←被害想定←ハザードマップという順になっています。
自助として、住民がハザードマップを作ることの必要性が述べられていました。
災害=抵抗強度<自然営力という考え方のもとで、
国土交通省のハザードポータルサイトには想定最大規模が載っているそうです。
ハザードマップを多くの人は、リスクを知るのではなく安全を確かめるのに使っているが、
安全を確認するものではなく、リスクを知るものであると強調されていました。
東日本の震災では、想定の2倍の面積に津波が浸水したため、
津波ハザードマップが安心材料になってしまった可能性もあるとのことです。
地震被害想定は、行政が備蓄を考える基礎資料であるため、
自助に向けて、住民が被災リスクを確認するために使えば良いとのことでした。
強い地震を発生させる可能性のある断層のアスペリティにおいて、
一様に断層が壊れるのではなく、どこから破壊が始まるか分からないとのこと。
よって、中程度のケースで想定することとなり、
地震は、想定通りに起こるとは限らないとのことです。
想定が、各場所での最大値を集めるという方法になったとすると、
共助、自助のためのハザードマップが別にあってよいとのこと。
毎年、異なった想定で防災訓練を行うなど、
防災リテラシーの確立を目指して、
防災を専門家から市民の手に委ねていかなければならないと
提案されていました。
モノづくりの現場から見えるもの
佐久間博(アトリエ佐久間)氏はいくつかの主張をされていました。
・調和、バランス(均衡)を崩したから災害となる。
・効率化を求めて手抜きが原因の災害もある。 例 JCOの事故
・不適合、不適切、無理な形態選択を避け、経年変化(時間)も考慮すべき。
・偏り、集中、巨大化、均質化、均一化は最大の悪であり、生命におけるガンと同じ。
・共同作業としての建築生産が重要であり、絶えず全体を考えてものを作るべきであり、
細かい専門性や分業は好ましくない。
・分業により建築の一生を見る機会がなくなっている。
・経年変化が生産(設計)に反映されていない。
・未知なるものに対応することが重要である。
ディスカッションも活発に行われていました。
災害を回避できる土地はどれだけあるのか?という問いに対して、
安全なところ探すのが難しい。
記録をしっかり残すことが重要。
今後の人口動態のことも考慮して、建築物の所有のあり方をこれからは問わねばならず、
その資金?や政策?をいかにするかとう問題に向き合わなければならない。
持ち家制度は破綻しているので、新築は作らないという方向で社会を考えていかなければならない。
解体後の布基礎を残して活用するなどの具体的な方法も考えていくべきではないか?
など、いくつもの興味深い意見が述べられていました。
理念や理想について考えるためのリテラシーが必要であり、
食と住に関しては義務教育で教えていかなければならないのではないかという提起もあった。
専門家が説明できるリテラシーまで持っているのか?との問題の指摘もあり、
最後は教育の問題にまで議論は至っていました。