客:山
誰だかわかる?
来店したのは、山だった。
山は匠と同じ専門学校の卒業生で2年先輩になる。
匠の同級生の石から店のことを聞いて訪ねてきたらしい。
山はリフォーム業を営み続けている。
店主:匠
山さんですね。ご無沙汰してます。
客:山
匠が大工として良い仕事をしつつ、土曜の夜だけ居酒屋やってるって石から聞いたので来てみたよ。
店主:匠
山さんは、今、仕事はどうされてるですか?
客:山
いろいろあって経営者の立場から、雇われる立場に変わることにしたよ。
店主:匠
立場が変わると時間の使い方も変わりますか?
客:山
全然違うね。
経営者の時には、四六時中、会社のことを考え続けていたよ。
それが雇われる側になると、すべてのことを背負うという責任の重さから解放された気がする。
店主:匠
確かに何人もの社員を抱えた経営者は大変ですよね。
客:山
その点、匠は一人だから社員に対する責任みたいなものはないか?
店主:匠
そうですねえ、俺は経営しているって感じじゃないですね。ちゃんと生活していけるように稼ぎはしますけど、雇用主としての責任を果たす必要はないですからねえ。
客:山
最近思うんだけど、我が子と接する時間の使い方も違う気がしてるよ。
仕事と生活の時間の切り分けって、そうそう簡単にできるわけでもないけど、雇われている立場になって、ある程度の割り切りができるようになった気がする。
店主:匠
俺なんか、24時間、ずっと仕事をしてるとも言えるし。全部が趣味だと言えないこともない気がしますよ。
客:山
たぶん、自分のペースというものを守ることができるかどうかが大切なことなんだよね。
土曜の夜、ケヤキの一枚板のカウンター越しの対話はまだまだ続く。