店主の匠は、かつて大工技術と建築の設計の両方を学ぶことのできる学校に通っていた。
卒業して30年近く経っている。今夜の客の岩は、その学校の教員として当時、匠に建築構造を教えていた。
客:岩
久しぶり
店主:匠
おっ、久しぶりじゃん
客:岩
年賀状に店のこと書いてあったので気になっていたんだけど、やっと来れたよ。
店主:匠
石たちとの飲み会以来、10年ぶりぐらいじゃない。
石は、匠の同級生で他県で地域に根差す工務店を経営している。
客:岩
あれから後も、みんな頑張って仕事しているんだろうか?
店主:匠
先月、石が店に立ち寄ってくれたけど、なんだかんだありながらも結構な人数の工務店の社長として頑張ってる感じだったよ。
客:岩
匠は相変わらず一人でやってるの?
店主:匠
自分のペースで仕事していきたいからね。
客:岩
そうは言っても施主の生活の都合やお金の段取りとかあって、自分のペースで進められないんじゃない?
店主:匠
お客さんには理解してもらっているよ。
これぐらいの期間がかかりますと伝えて、それで良いという仕事を請けている感じだよ。
客:岩
納得してもらった場合しか、仕事を請けないってこと?
店主:匠
基本的にはそうだね。待ってもいから頼むと言ってくれるお客さんが続いているんだよね。
客:岩
お客さんは、匠の仕事の取り組み方を知って頼んでくるって感じかなあ?
店主:匠
そうだね。先に仕事を請けた施主さんから次の施主さんを紹介してもらうってケースが多いような気がする。
土曜の夜、ケヤキの一枚板のカウンター越しの対話はまだまだ続く。
【補足】
請ける:うける 建築工事を依頼されて仕事をするための契約を請負(うけおい)契約という。