参考図書
・自然災害と土木-デザイン 星野裕司 著 農文協 2022年
書店の土木関連の本の棚で見つけて購入した一冊。
建築の棚だけを見ているだけでは、この本には、おそらく出会えていなかった。
土木とデザインの間にハイフンが入っているのは農文協のプロダクションの田口均さんの提案だったそうで、
そのハイフンによる亀裂により、星野さんはさまざまな思考を展開されたとのこと。
この本を一読すると、
土木のデザインを考える思考の根底には「うけとめていく」姿勢が欠かせないことがわかる。
この本は土木を対象としながらも「うけとめていく」デザインについて書かれている本だといえるように思う。
星野は篠原修や大熊孝の土木デザインについての言及をもとに、
「国家の自然観」と「民衆の自然観」をつなぐものをどうデザインするかということを重視する立場で、
『土木のデザインを「自然と人間をつなぐインターフェイス」のデザインと捉えた』と思われる
実践例を紹介しながら、そのつなぎ方について考察している。
星野は、ハイデガーのいうEntbergenについて、
関口浩の〈開蔵〉、森一郎の〈顕現させること〉の訳語に触れて、
『〈自然(フェシス)〉に対応した〈開蔵〉の仕方が〈制作(ポイエーシス)〉である。』として、
いくつかの事例を紹介している。
『現場を訪れるたびに想像以上の空間が現出していく過程』を目の当たりにして『〈自然〉そのものが人間による〈制作〉をきっかけとして姿を現していくように感じられた』という曽木の滝の分水路についての体験を紹介するなどして、
『風車や伝統的治水工法も「〈自然〉の力を利用しておこなう、おのれの地盤の確保」であると同時に、その存在によって、おのずから生成する〈自然〉そのものに気づくという、人と自然をつなぐインターフェイスのデザインとなっているのではないだろうか。』というデザインの方法論についての投げかけを星野はおこなっている。
「建てること、住むこと、考えること」というハイデガーの講演内容が参考になるとして、
ハイデガーの〈労る〉(読みは、いたわる)という言葉について、
講演の中でハイデガーが『〈労る〉のあり方の一つとして、「大地を救い、天空を受け入れる」とも述べている。』ことを指摘して、『ハイデガーの議論がユニークなのは、建設することや構造物そのものも〈労る〉ことを実現しているということである』と述べている。
そして、維持管理について、『維持管理とは本来、整備されたその環境を〈労り〉続けるということであれば、「作ること、労ること、保つこと」(森一郎の引用文献)を一体に考える〈制作(ポイエーシス)〉としてのデザインが問われているのだと考えることができるだろう。』と述べている。
『普請という言葉には、今あるものの働きをよりよく引き出し、維持するという、メインテナンスに近いニュアンスが強くある。』として、この著書の終わりに近いところで、星野は普請という概念について述べている。
『このメンテナンス的ニュアンスをもつ普請は、ハイデガーがいう、「何かをその本質においてそのままにしておく」ことで「自由にする」という積極的なはたらき、つまり、〈労る〉ということだといえないだろうか』という星野の投げかけには、まったくその通りだと共感できる。
※本日11月18日はたまたま土木の日。
漢数字の十一をバラして再構成すると漢字の土、十八は漢字の木になるからだそうです。
「うけとめていく」デザインをキーワードにして、考えていることを少しずつ記述していきます。
その前書きはこちら→ 試論:「うけとめていく」デザイン連携活動
「うけとめていく」デザインを英語に翻訳する場合
次のようなフレーズが適切であると考えています。
“Design that embraces the way things are”