「しくみをみよう」構造目線

「うけとめていく」デザイン

写真は、現在をうけとめて過去にしていく?

参考図書
・ベータ・エクササイズ 金村修の理論と実践  2019年
Beta Exercise: The Theory and Practice of Osamu Kanemura
punctum books
ISBN-13: 978-1-947447-7-76

英語と日本語が併記されている本です。
金村氏の写真に対する考え方をうかがい知ることができます。
本が紹介されているページはこちら
https://kanemura-osamu.com/wp2017/beta-exercise/

『ベータ・エクササイズ』という本を
浜松市のBOOKS AND PRINTSにて、1年ほど前にたまたま見つけて購入した。(サイン入り)
この本には、金村の写真に対する考え方がインタビューとエッセイにより構成されている。
この本から、過去と現在、イメージを物質という概念に対して写真を通じて
金村がいかに向き合っているかということをうかがい知ることができる。

デジカメやスマートホンのカメラ機能によって誰でもきれいな写真を撮ることできるようになったことについて、
『写真技術がすべての人間に開かれ、誰にでも上手い写真を撮れることが可能になったとき、上手いとか下手だとかいう価値は意味をなくす。』と金村は断言している。
上手いとか下手だという価値ではない写真の価値について金村は、
「イメージと物質」、「現在と過去」という2つの視座から考察しているように思える。

『写真は写真だけで自立できない芸術なのだ。写真がつねにキャプションという言葉を必要としたのも、言葉という外部がなくては、何を見せているのか分からなかったからではないだろうか。』と投げかけた上で、
『テーブルを、これはテーブルだとつねに言葉で確認し続けなければならないのは、テーブルの意味がそこで崩壊しているからだ。テーブルを構成する意味を写真は失調させる。写真は現実を失調させる。』
現実そのものではなく、また言葉のみで言い表せないものを写真によって表現できることを金村は示唆している。

『人は新しいイメージを見るのではなく、過去のイメージをそこに投影して見ているだけです。イメージは過去の中でしか存在できない。イメージには今ここがありません。』と過去のイメージにとらわれざるを得ないことを述べた上で、
『現実の時間は写されたその瞬間に強制的に停止させられ、過去の領域に貯蔵されます。映像は写したその瞬間から対象を過去の領域に送りこむのです。』という現在と過去をつなぐ役割を写真が担えることを金村は示している。

また、自信がクローズアップの技法をあまり使わないことについて金村は、
『写真は美を表現するのではなく、美を成立させる地平を写してしまうものだと思います。それは美がどのような環境で成り立っているのかという、美が立脚している構造を顕わにするのではないかと思っています。』と語り、
『物事を美しく撮るのにクローズアップが有効なのは、それがどんな場所にいるのかという地平を覆い隠してしまうからです。』と述べて、単に美しく撮ることを求めるのではない場合に、環境そのものを写す重要性を説いている。

中平卓馬の写真や文章ついて、
『わたしの存在は世界によって構成されたものであり、わたしは世界の一部でしかない。』と思わせる力がそこにあると金村は述べており、金村自信が個人の気持ちのみを表現するものではない表現のあり方を重視しているように思える。

新しいものを求め続ける資本主義社会のあり方に対して金村は懐疑的であり、次のように語っている。
『消費はつねに新しいものを必要とします。新しくフレッシュなものを求めるように資本主義社会は、私たちに要求します。』
そして、金村はそういった社会を取り巻く状況の変化を嗅ぎ取っているように思われる。
『資本主義社会の魔法は既に時代遅れになってしまったのです。』
『屑を黄金に見せる手品は破綻してしまったのです。』

最後のインタビューの締めくくりの言葉からイメージだけの世界で表現しない金村の姿勢を感じ取ることができる。
『イメージとは形容詞ではありません。イメージが人間にとって現実なら、それは物質的な存在でなければならない。写真は風景からあらゆる形容詞を剥ぎ取ることで、物質としてのイメージを顕します。イメージの物質化。イメージを形容詞に改修させるのではなく、物質の側に奪還するのです。』

『ベータ・エクササイズ』で語られている環境や物質との向き合い方の姿勢が、「うけとめていく」デザインを考えるために必要なものであるといえそうである。

「#せっしゃ目線」というタグをつけて、デジカメ(オリンパス Tough TG-6)で接写した画像

「うけとめていく」デザインをキーワードにして、考えていることを少しずつ記述していきます。
その前書きはこちら→ 試論:「うけとめていく」デザイン連携活動

「うけとめていく」デザインを英語に翻訳する場合
次のようなフレーズが適切であると考えています。
“Design that embraces the way things are”

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