「しくみをみよう」構造目線

絵空ごと , 創作物語

明日へ架ける橋(超短編)

今日の国の人々が大きな石を積み上げている。はるか向こうの明日の国の人々も同じように積み上げている。
石は直方体ではなく、真横から見ると台形の形をしている。
長方形の石を積み重ねていくと上に上に高くなっていくのだが、台形を積み重ねていくので、しだいしだいに弧を描くように明日の国の方へ向かって行く。
明日の国で積み重ねている石もしだいしだいにこちらに向かってくる。
両方の石が真ん中で出会い、最後の石を落とし込むと、今日の国と明日の国がつながる。はずである。
虹の架け橋のように積み上げられた石が弧を描いて安定する構造形式は、アーチと呼ばれている。
アーチは、中央の石が据えられるまでは不安定で、それぞれの石を下から支えてやらないと形を保てない。
「後もう少し、ここが正念場だ。とにかく全員で支えて耐えろ。」
リーダー格の誰かが叫ぶ。
「今度こそ」
「何とかするぞ」
「きつい」
「もう少しだ」
誰も彼もが、うめき声とともに、自身を励ましつつなんとか耐えている。
真ん中に近づくにつれて、高くなっていく石を支えるのはさらに大変で、人が積み重なるようにして柱となって耐えて支えている。
「よし、最後の中央の要石を載せるぞ。」
中央の石は、一番大事な石だという意味で、かなめいしと呼ばれている。
「おう」皆のかけ声がそろった。
明日の国の人々からも「おう」という一つになった声が聞こえた。
ずずーん。
大きく響いて、最後の要石がはめ込まれた。
今日と明日を結ぶ架け橋となるアーチが完成した。
かのように思えた。
人々がそれぞれ支えていた石から手を離して、拍手をしようとした途端。
「やったー」という成功の歓声が響き渡ろうかというその瞬間、
一番最初の一番下の一番端っこにある石が、ずるずるずるとアーチから押し出されるかのようにずれ始めて、ずどどーん。
巨大な音を鳴り響かせて、アーチが一挙に崩壊した。
もちろん、少し前まで石を支え続けていた人々は、全員、数多くの巨大な石の下敷きになって命を失っていた。
アーチは石などを積み重ねてつくることができる形で、石と石の間、石そのものには圧縮力という押される力が加わっている。
押される力だけを伝えて架け橋となることができる。
ただし、完成したアーチでは、外向きに広がろうという力が足下に働く。
その力のことをスラストと呼んでいる。
そのスラストに抵抗できるように足下の両サイドからアーチの内側に向かって押す力を加えなければアーチは安定しない。
今日の国の人々も明日の国の人々も、そのことを知らないまま、足下を押すことをせず、最後の要石を落とし込んだ途端、全員が手を離したためにアーチの崩壊を招いてしまった。
今日の国の人々は、何度も明日への架け橋を渡したと思えた瞬間に、そのアーチが崩壊する経験を繰り返してきた。
今回もおそらく、また崩壊するだろうとあきらめていて、次の部隊が、それに備えて、遠くの山の石切場で、次のアーチの材料となる巨石の加工作業をしていた。
ずどどーん。大きな地響きと遠くに高く昇る土煙で、彼らはアーチがまた倒壊したことを知った。
「やっぱりだめか。」
崩壊することを確信していたかのようなあきらめた感じの声のトーンであった。
「よし、行くぞ。」
リーダー格の誰かが叫んだ。
「おう。」
あたりの人々が全員声を上げた。
次なるアーチを掛け渡すことへの挑戦がまた始まる。
彼らは石切場の仕事に集中していたため、アーチの崩壊現場を観ていない。
もちろんスラストのことも知らない。
これまでと同じように、石を運んで石を積む。
最後の要石を載せるところまで、とにかく全員で支えて頑張る。
そして最後の石を載せ終えた途端。
ずどどーん。
明日への架け橋は、今日も架かっていない。
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